パレーズ・エンド  監督 スザンナ・ホワイト

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WOWOWで深夜に放送されました。吹替版で、ベネさんの声優は小森創介さん。DVDとは声優さんが違うんですね。DVDは三上さんです。小森さんの声も良かったです。
ネタバレありますので、ご注意下さい
 
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クリストファー・ティージェンス(ベネさん)は、昔ながらの英国紳士としての道徳観と価値観を重んじる貴族の青年です。悪く言えば、融通の利かない石頭…と周囲にも思われていて、妻のシルヴィア(レベッカ・ホール)をイライラさせ、非常に優秀なのに職場(統計局)でも浮いた存在です。
でも息子をとても愛していて、その接し方を見ているだけで、温かい心を内に秘めた人物だということが分かります。自分の子供ではないかも知れない…と知っているはずなのですが。

金髪にくるんとした前髪のクリストファーが素敵です
いかにも英国紳士らしい服装の数々が見所で、特にゴルフの時のツイードの上下と帽子がかわいらしく、すごくお似合いでした^^
 
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シルヴィアは奔放な女性で、当時の貴族の妻としては異色の存在です。
でも、周囲からそれほど嫌われたりしていないのは、その魅力のなせる技でしょうか。
浮気をして家から出奔したり、クリストファーをひどい言葉でなじったりするのですが、本当は誰よりも夫を愛しているのだと思います。
クリストファーは性的に彼女に惹かれているのと、「妻」という立場を尊重しているだけで、シルヴィアを愛してはいないんですね。
シルヴィアはそれを分かっていて、夫の気を惹くために、いろいろとやっているわけです。

崖の上で、二人で鳥を眺めるシーンがあります。シルヴィアは鳥についてクリストファーに尋ねます。この上なく美しい風景の中、ロマンティックな雰囲気になるどころか、クリストファーが話すのは戦争のことばかり。
二人の思いが決定的にすれ違っていることが分かる、象徴的なシーンです。
 
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ティージェンス家の前庭には、とても大きな杉の古木があり、木には様々なお守りがぶらさがっています。この木が家の象徴であり、クリストファーにとっては心の拠り所となるような大切な物なのですが、これがまたシルヴィアをイライラさせる物の1つなんですね^^;

シルヴィアが出奔している間に、クリストファーは女性参政権活動家のヴァレンタイン(アデレイド・クレメンス)に出逢います。シルヴィアとは正反対の感じの、まるで少女か少年のような、純粋で若々しい女性です。
惹かれ合った二人は、だんだんと心の距離を縮めていきます。この過程が、中学生のようでほんとに初々しいんです^^
クリストファーがヴァレンタインの名前を聞いただけで、「ワノップさん?」とドキドキしたりとか…
 
アデレイドさんってこのドラマで初めて知ったのですが、「ウルヴァリン」でデビューしたのですね。ショートヘアが似合っていてかわいらしい人でした。レースや大きな襟の衣装が多く、素敵でした。
対してシルヴィアは豪奢で体の線をはっきりと出したものが多く、こちらも美しかったです。
 
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やがてシルヴィアは夫の元に戻ってきますが、紳士として離婚をすることなどあり得ないクリストファーは、彼女を受け入れます。
この、「離婚しない」というスタンスは、ヴァレンタインとはっきりと恋仲になってからも続くんですよね…^^;

友人の色恋沙汰に巻き込まれたクリストファーは悪い噂を立てられた上、わざと小切手に不渡りを出されて面目を失います。しかも、不正を手伝うように上司に言われ、辞職してしまうのです。
これが契機となって、クリストファーは軍隊に入ります。(第一次世界大戦
気の毒ではあるのですが、相談なしに仕事を辞めた上に軍隊とか、シルヴィアが腹を立てるのも無理ないですね…。
それでも、夫の陣中見舞いに無理やり訪れたりして、迷惑でもあるけどかわいいところもある女性だなと思いました。

クリストファーに悪い噂が立った頃、兄のマーク(ルパート・エヴェレット)が弟の行状を父に頼まれて調べるのですが、その様子から見て、仲が悪いの?と思ってました。でもヴァレンタインの家に父親の遺産を分けてあげたり、二人の仲も応援してくれて、実はいいお兄さんでした。
ルパート・エヴェレット、ひさびさに見ました。渋い感じになってますね。
 
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後半はほとんど戦地でのシーンなので驚きました。
そういうわけで、クリストファーもほぼ軍服です。コート姿がかっこいいです 普段の軍服も、袖のところがおしゃれです^^

何でこれほど戦地でのシーンが多いか…というと、戦争の過酷な経験の中で、クリストファーが人間的に成長するからなんですね。
何人もの同胞が目の前で死に、自分も死と隣り合わせの中、戦争神経症に陥った指揮官の代わりを引き継いで戦います。
部下を守って怪我をした勇敢さで勲章をもらえるはずだったのに、人に譲ってしまう謙虚なクリストファーなのでした。
 
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除隊になって戻ってきたら、大切な木はシルヴィアの指示で切り倒されてしまっていました。
きっとシルヴィアは、クリストファーが除隊後すぐに戻ってこなかったことで、もうダメなのだと感じたのでしょう。木を切ってしまったのも、当てつけというよりは、彼女なりのけじめのようなものだったのかも。
ショックを受けたクリストファーはせめてもの記念にと、木の一部を持ち帰り、一つをマークの元に届けにいきます。でも、マークは速攻火にくべてしまって…。兄と弟の、家に対する考え方の違いがここではっきりします。

ヴァレンタインと共に、軍隊での仲間たちを迎え入れるクリストファー。みんな笑顔で彼との再会を喜んでくれます。かつての、敬遠されていた気難しい男の姿はもうありませんでした。
そして、クリストファーは、持っていた残りの木を暖炉にくべます。この時、彼はようやく古い価値観から解放されることができたのですね。
待っているのは、ヴァレンタインとの本当の幸せ…。

登場人物は多いけれど、とても分かりやすい話でした。
タイトルの「パレーズ・エンド」とは、カンピオン将軍の話にも出てきましたが、クリストファー自身のことで、“古い価値観の中で取り残された最後の1人”というような感じでしょうか。
温かいハッピーエンドでしたが、できればこの後、マイケルを引き取ってあげてほしいですね。シルヴィアに冷たくされてかわいそうだったので。
 
ベネさんはほとんど出ずっぱりで、熱演でした。なかなか難しい役柄だったと思いますが、クリストファーの心情を繊細なまでに見事に演じていたと思います。ベネさん自身、「今まで演じた中で一番素晴らしい役」と語っていたそうです。
レベッカさんの演技も素晴らしかったです。彼女がピリッと効くスパイスのように物語を彩ってくれていました。
 
今度DVDの廉価版が出るので予約しています。
届いたら、ベネさんの声と、三上さんの吹替を楽しみたいと思います^^
 
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